サイコロステーキについての一考察



 話を単純にするために、まずサイコロステーキをひとつだけ焼くことにしよう。

 まず、サイコロステーキを熱したフライパンに乗せる。すると、その時に下になっ た面は火が通るが、残りの5面は赤いままになる。
 そこで、フライパンの柄をしっかりもって「うりゃ」とやると、サイコロステーキは空中で回転して、またフライパンの上に戻る(ここで料理人は腕がいいと仮定する)。もちろん、その時に、最初に焼いた面とは別の面が下になってくれればいいのであるが、運悪く同じ面が下になるかもしれず、その場合は、もう一度「とりゃ」とやらなければならない。

 6回焼くときの「場合の数」の総数は、当然ながら6の6乗になる。そのうち、全部の面に火が通る「場合の数」は、6!=6×5×4×3×2×1になる。計算してみると、なんとたったの 1.5% しか焼きあがらない。
 これではさすがに困る。

 では、一発よけいに「おりゃ」としてもいいとして、7回以下で焼きあがるのは、いったい何パーセントぐらいになるだろうか。また、8回、9回、一般にn回となると、何パーセントとなるんだろうか。
 この計算、簡単なように見えて、じつはけっこう一筋縄ではいかない。

  1. 6回焼いた場合をもとに拡張する。

     7回で焼きあがる場合は、6回で焼きあがる場合に加えて、どこかに一回、無駄な焼 きが入ったとき、と考えるわけだ。

     しかし、無駄な焼きというのは、あくまでその面が焼かれた「後」に入らなければいけない。6回焼いた場合に1回加えるのは簡単だが、それにさらに加えようとすると計算がとんでもなく大変になり、事実上計算できない。

  2. 順序はあとで考えることにして、組合せを考える。

     とりあえず、順序がどうでもいいとすると、6つの面をそれぞれ1回以上ずつ焼いて いるということになる。たとえば8回焼いているとすると、6回はそれぞれの面を 焼くということで固定されていて、2回は6面のどこでもいいわけだから、組合せの数は6の2乗となる。
     問題は、組合せを順序に直すときにある。最後の2面を、どこでもいいといって処理してしまったが、順序の数を計算するには、2面が同じ面の場合と違う面の場合で場合分けしなければならない。2つならなんとかなるが、3つ、4つとなってくると、これも計算が爆発する。

  3. 「焼きあがらない場合」を考える。

     ある特定の面が焼きあがらない場合の数というのは簡単に求まる。ほかの5つの 面が焼かれている場合なので、5のn乗となる。面は6つあるので、これを6倍し て、場合の総数(6のn乗)からひけばいいわけだ。
     というのは、実は間違っている。なぜなら、焼かれていない面が2つある場合を二重にカウントしているからである。ある特定の2面が焼きあがらない可能性は4のn乗で、面の組み合わせは15通りあるので、6×5^n−15×4^nを考えなければならない。

     しかし、焼かれていない面が3つある場合が……どのぐらい重複してカウントされて いるんだ? 筆者はわけがわからなくなってしまった。
 なんだかサイコロステーキという気分になってきたでしょう?

 ただ、こういうようなことを心配しながらサイコロステーキを焼いていると、つい焼 きすぎてしまうので、注意するように。


気になって夜も眠れない