好奇心の轍

脳・心・人工知能といった、よくわからんものを研究するふりをしながら、日々と人生についてつらつらと考えている「たっきー」のブログです。
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2004/03/18 (Thu) ソニーの新研究所

[研究][AI] 人と見分けがつかない?

ちょっと古いニュースになってしまったが、ソニーの新研究所設立の話。

ソニー、次世代ロボットの研究所設立へ 脳科学を応用 (asahi.com)

土井さんのコメントによれば5年後には、人と見分けがつかないほど自然なコミュニケーションができるロボットを実現させたい という。大変な目標を掲げたな、というのが感想である。

やることは面白いし意欲的だと思う。一研究者としてみてもQRIOで遊べるというのは魅力的だし、100並列の計算パワーと先端研究者の頭脳があればなにかできるかも、という発想もわかる。AIBOの成功があるからなおさら、その延長線上に人間を、と思うのだろう。その気持ちはよくわかるし、この世知辛い世の中、がんばってほしいと思う。

とはいえ、たった5年で人と見分けがつかないほど自然なコミュニケーションは、さすがに無理じゃないかと思うのだ。

この研究所でやることといままでの研究との違いはなにかというと、記事によれば脳研究の成果を活用すれば、ロボットが自ら学習したり、周囲の状況に応じて反応したりするなど、自律的、知的な動作をこなすことも可能ということである。さらに、研究所の名前がライフ・ダイナミクス研究所である。このようなことを考えると、おそらく、動的に学習を行って環境に適応するような技術を研究するのだろう。

しかし、環境に適応するのは人間への第一歩でしかない。そのさき越えなければいけない壁がいくつあることか。

5年では、おそらく運動制御 (歩くとか) や価値関数 (何を主人が喜ぶか、とか) の学習が精一杯であろう。人間と似た立ち居振る舞いは実現できるかもしれない。その先の、目的を目指したり、会話したり、自分の感情や判断といったことは、すべて開発者がプログラム (規則) で与えることになるだろう。

AIBOが成功したのは、人間側が都合よく受け取ってくれたからである。人間には、中身の見えないものをみると、自分と同じように感情や判断に基づいて動いているのだ、と捉えてしまう傾向がある。だから、内部が単純なプログラムでも、AIBOはかわいがってもらえたのである。

だからといって、AIBOの技術プラス運動制御学習程度で人間ができるだろうか。逆に、人間と似ていれば似ているほど、規則でできていることの違和感が大きくなるのではないか。犬なら機嫌が悪いとかで済まされていた規則のゆがみが、人間そっくりのロボットであれば嫌悪感さえ生みかねない。人間に近いということは、諸刃の剣であると思う。土井さんたちも、どえらいことに取りかかったものである。

「人と見分けがつかないほどのコミュニケーション」のためには、僕は、自己観測原理が必要であると信じている。一昨日の記事でも書いたものだが、別の言い方をすれば、中身の見えないものをみると、人間と同じように感情や判断に基づいて動いているのだ、と捉えてしまう能力である。双方がこの能力を持っていてはじめて、お互いの気持ちがわかりあえ、コミュニケーションが成立する、と僕は考えている。

もちろん、これだけでは不足だ。しかし、この部分の研究が必要であることは間違いない、と思っている。5年ではとてもロボットに組み込むことは無理だが。

まあ……だから、5年後にできるのは、もう少し面白い人間型AIBOというところであろう。それでも、運動制御学習ができれば行動範囲も広がるし、十分にチャレンジングな課題だと思うのだが。そして、それができたときときこそ、人と見分けがつかないほど自然なコミュニケーションの研究に取り掛かる好機だと思う。

5年後にこの研究所に応募しようかな?

本日のコメント(全3件) [コメントを入れる]
小野寺 (2004/09/02 (Thu) 01:12)

5年でなにもできなかったとしても挑戦できるだけすごいでしょ。過去の人たちが失敗したからといってそれを根拠にどうこういえるの?判断材料が少ないしぃ!・・・もうえーわ!

たっきー (2004/09/02 (Thu) 10:43)

別に過去の失敗を繰り返すといっているわけではないです。「5年で人と見分けがつかないほどのコミュニケーションを実現させたい」という発言に対して、5年では短すぎると指摘しただけで。ただ、その5年で蓄積されるものはおそらく非常に重要な技術になるでしょう。そうでなければ5年後に応募しようかななんていいません。<br>現在までの技術を知りたければhttp://www.cns.atr.jp/hrcn/research/index.htmlあたりを見てみるといいかも。なかなかがんばっています。

ノース (2007/07/02 (Mon) 14:26)

一風変わった脳内構想のホームページがあるのですが、よろしければ、ご批評願えないでしょうか?<br>http://members.goo.ne.jp/home/north-lab

> Track of curiousity (2004/04/14 (Wed) 12:03)

[研究][AI] ソニー・インテリジェント・ダイナミクス2004PC Watch に、シンポジウム「ソニー・インテリジェント・ダイナミクス2004 −脳・身体性・ロボット・知性の創発−」の取材記事か載っていた。ライフ・ダイナミクス研究所系の会議である。この研究所については、........